【ソニー創業者 井深大のリーダーシップ】
宮端清次(はとバス元社長)
「ソニーの社長時代、最新鋭の設備を備えた厚木工場が出来、世界中から大勢の見学者が来られました。
しかし一番の問題だったのが便所の落書きです。
会社の恥だからと工場長にやめさせるように指示を出し、工場長も撤退して通知を出した。
それでも一向に無くならない。そのうちに『落書きをするな』という落書きまで出て、私もしょうがないかなと諦めていました。
するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。『どうしたんだ?』と尋ねると、
『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、かまぼこの板二、三枚に
”落書きをしないでください。
ここは私の神聖な職場です“
と書いて便所に張ったんです。
それでピタッと無くなりました』と言いました」
井深さんは続けて、
「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップを取れなかった。パートのおばさんに負けました。その時に、リーダーシップとは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。
以来私はリーダーシップを”影響力“と言う様にしました」と言われたんです。
リーダーシップとは上から下への指導力、統率力が基本にある、それは否定しません。けれども自分を中心として、上司、部下、同僚、関係団体・・・、その矢印の向きは常に上下左右なんです。
だから上司を動かせない人に部下を動かすことは出来ません。上司を動かせる人であって、初めて部下を動かすことが出来、同僚や関係団体を動かせる人であって、初めて物事を動かすことが出来るんです。
リーダーシップとは時と場合によって様々に変化していく。固定的な物ではありません。戦場においては時に中隊長よりも、下士官の方が力を持つことがある。ヘッドシップとリーダーシップは別ものです。
あの便所においてパートのおばさんこそリーダーだった。そうやって自分が望む方向へ、相手の態度なり行動なりが変容することによって初めてリーダーシップが成り立つのです。
365日仕事の教科書(致知出版)
趣味:ソシアルダンス、パーソナルジムで筋トレ、レイトショーで一人映画鑑賞、美しいものを眺めること